緊張や不安でおかしな行動をしてしまう~変な行動3パターン
私たちが社会不安(対人関係において感じる不安)を感じる時、その不安は「体の変化」「行動」「認知」の3つに大きな影響を及ぼします。
前回は「体の変化・反応」に与える影響について説明しましたので、今回の記事では「行動」について詳しく解説します。
不安や緊張を感じる状況に置かれた時、私たちはしばしばいつもとは違う「おかしな行動」をとってしまうことがあります。
あなたも経験はないでしょうか。自然に振舞おうとすればするほど、動作がぎこちなくなってしまったということが…。
緊張や不安を感じた時に生じる「おかしな行動」は、大きく分けて3つあります。
- 他人とのコミュニケーションが不自然になる
- 不安・緊張を感じる場面を避ける、逃げ出す
- 極端に消極的あるいは攻撃的になる
以下、それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.他人とのコミュニケーションが不自然になる
他人とのコミュニケーションが不自然になるケースでは、「極度に舞い上がった状態」と「全く気力を失ってしまう状態」の2パターンに分かれます。
極度に舞い上がった状態
興奮して舞い上がってしまい、自分が何を言っているのかもわからなくなったり、思ってもいないことを口走ってしまう状態です。
先日、ほぼ初対面の人たちが6人で雑談する機会がありました。
その中の一人が、この「極度に舞い上がってしまう」タイプの人でした。
その人は、ちょっとした沈黙に耐えられないようで、そのような状況になると、早口でまくしたてるように話をしていました。
帰りの際、エレベーターで二人きりになった時にその時の心境を話してくれました。
「複数の人数で話すことがとても苦手で、自分でも何を話しているのかよくわからなくなってしまうんです…。」
他にも、好きな女性の前でぎこちない行動を繰り返したり、大事な試合で普段では考えられないような凡ミスを犯してしまうことなども、このケースに含まれます。
不安や緊張で全く気力がわかない状態
ちょっとしたきっかけで極端に意気消沈してしまい、他人とのコミュニケーションをとる気力が失われてしまう状態です。
ある趣味のサークルの飲み会に参加したA子さん。
「今日はみんなとたくさん話して楽しもう!」とはりきっていました。
ところが、飲み会が進むにつれて、なぜか気分は落ち込み、ふと気が付くと会話の輪から外れたところに一人ポツンと座っていました。
「なんで飲み会なんかに来てしまったんだろう。誰も私と話したいなんて思っているはずもないのに…。」
そんなふうに考え始めるとますます気分は落ち込み、誰かが話しかけてくれてもろくに返事すらできなくなりました。
きっかけはほんの些細なことです。
自分が切り出した話題がそれほど盛り上がらなかったり、自分と目が合った人がさりげなく目をそらした気がしたとか、そんなことです。
それがきっかけで「自分の話なんてつまらない」「自分は嫌われている」と考えてしまい、強い不安を感じて「全く気力がわかなく」なってしまったのでした。
「極度に舞い上がった状態」は、不安な状況に無理やり立ち向かい、どうすればいいのかわからなくなっている状態です。
たとえるなら、ブレーキのない車でアクセルをベタ踏みしながら走り続けているようなものです。
反対に「全く気力がわかない状態」は、不安な状況に立ち向かうのをあきらめて、時間が過ぎるのをただひたすらじっと待っている状態です。
こちらは言わば、ガソリンの入っていない車の中で耐え忍んでいるようなものでしょう。
2.不安・緊張を感じる状況を避ける(回避)、逃げる(逃避)
1の「他人とのコミュニケーションが不自然になる」という状態に陥ったら、次にあなたはどのような行動をとりますか?
社会不安を感じている社交不安障害(SAD)やあがり症の人たちは、次の2通りの行動をとることが多くなります。
1つは、再び同じ状態に陥らないように、その状況を何とかして避けようとします。(回避)
もう1つは、その状況を避けられなかった場合、どうにかしてその場から逃げ出そうとします。(逃避)
不安・緊張を感じる状況を避ける(回避)
不安な状況を徹底的に避け続けていれば、たとえば責任のある重要なポストに昇進する機会も失ってしまうでしょう。社会的な地位を諦めねばならなかったり、経済的な損失を受けることになります。
また、異性が苦手だからといって異性を避け続けていれば、一生恋愛や結婚とは無縁の生活を送ることになってしまいます。そうなれば、人間関係も極端に狭いものとなってしまうでしょう。
他にも、不安な状況を回避する習慣が根付いてしまうと、自分の回避行動をむやみに「正当化」し始めるようになります。
今よりも良いポストに憧れを感じていながら「自分は今の仕事にやりがいを感じているからこのままでいいんだ」とか、本当は恋人が欲しいのに「一人の方が気楽でいいから」などと言い訳をし始めます。
そして、それが正しい自分の気持ちだと思い込むようになっていきます。
これがあまり良い状態ではないのはおわかりですよね。
どうしても回避できない場合にやってしまう行動
それに、いつでも不安な状況を避けられるとは限りません。
不安な状況を回避できなかった場合、社交不安障害の人たちは一体どうするのでしょうか?
彼らは回避できなかった状況のなかで逃避行動を起こします。
たとえば、合コンに行きたくなかったけれど、どうしても断れなかった男性の場合について考えてみましょう。
異性と出会うせっかくのチャンスなのに、彼は
- 他人と目を合わせない
- 自分からは決して話をしない
- 部屋の隅に座ってなるべく会話に入らないようにする
などの逃避行動をおこし、その状況を回避しているのと同じ状況を作り出そうとするのです。
このように、「回避」やそれができない場合の「逃避」を繰り返していると、大きなデメリットがあります。
それは、不安や緊張がますます悪化していくということです。
不安を感じる状況に立ち向かっていける例外的条件とは?
例外として、普段なら絶対に避けるような「不安を感じる状況」にも立ち向かっていける場合があります。
それは「大切な誰か」の前で「体面を保ちたい」と強く感じる場合です。
Bさんが子どものころ、家族で遊園地に行きました。
遊園地の駐車場で、車をぶつけたか何かでトラブルになったそうです。
相手は見るからにタチの悪そうな二人組です。
しかし、Bさんのお父さんは、子どもたちが見ている手前、カッコ悪い姿は見せられないと考えたのでしょう。
その二人組に文句を言いに向かっていきました。
胸ぐらをつかまれ、さんざん罵声を浴びせられたお父さんは、恐ろしさのあまりブルブルと体が震えていました。
それでも引き下がらず向かっていきましたが、お母さんが間に入ってなんとかその場は収まりました。
その後、お父さんはBさんたちの元に戻ってきましたが、しばらく体は震えっぱなしだったそうです。
このお父さんも、一人だったらわざわざ恐そうな二人組に立ち向かっていくこともなかったでしょう。
本来だったら「回避」していた状況でも、大切な誰かの前で「体面を保ちたい」という思いが強ければ、「回避行動を回避できる」という例でした。
不安を感じる状況から逃げ出す(逃避)
「回避」は、前もってそれを避けようとしている時点で確信犯的と言えます。
逆に「逃避」の場合、もうどうにもならずに逃げだしてしまう、より本能的な行動と言えるでしょう。
「逃避」の一例をご紹介します。
C子さんが洋服を買いにお店へ行きました。
服を見ていると、店員さんが近づいてきてC子さんに話しかけました。
「どのようなお洋服をお探しですか?…」
話しているうちに、店員さんはC子さんの要望を聞きだし、希望に合うものを見つけようと次々と洋服を持ってきました。
たくさんの洋服を見ているうちに、C子さんは突然不安になりました。
「たくさんありすぎて私には決められない!!」
不安がどんどん大きくなってきて、C子さんはその場からすぐにでも逃げ出したくなりました。
そこで、手近にあった服をつかみ取り「これをください」と告げ、支払いをすませて逃げるように店を後にしました。
自分の好みの服ではなかったので、その後その服を着ることは一度もなく、クローゼットの奥にしまわれたままになっています。
このように「逃避」とは、目先の不安から逃れたいために、後先を考えない突発的な行動になります。
逃げられない状況に追い詰められたらどうなる?
それでは、どうしても逃避できない状況に追い詰められてしまったら、社交不安障害の人たちはどのような行動に出るのでしょうか。
その場合、普段の自分とはまるで違う人格を演じてしまうことがあるそうです。
たとえば、初対面や目上の人に、やけに馴れ馴れしい態度で接したり、自分のことを必要以上に貶めたりといった行動にでます。
そうすることで、「この人は変わり者だ」とか「よくわからない人だ」と思われようとします。
なぜそんなことをするかというと、相手に「本当の自分」を評価・批判されることから「逃避」するためです。
その後、もしその相手と会った時に気まずい思いをするなんてことまでは、とうてい考えられません。
ただ、その場から逃れられさえすればいい、という一心からの切羽つまった行動なのです。
3.不安を感じると極端に消極的、あるいは攻撃的になる
社会不安を感じると、極端に消極的になる人、あるいは攻撃的になる人がいます。
たとえば、ある男性は美しい女性の前では満足に話ができなくなります。
反対に、ある女性は緊張していると思われるのが嫌なために、男性の前ではわざとつっけんどんな態度をとってしまうと言います。
このように、同じような状況にも関わらず、人によって消極的になったり攻撃的になったりします。
どちらになるかは、その時の状況などによっても様々です。
不安を感じると消極的になる人は、以下のような行動をしてしまいがちです。
- 思っていることを口に出せなくなる
- 会議でいいアイディアが浮かんでも発言できない
- 欲しいものがあっても我慢してしまう
- 人に合わせて自分の考えとは違う行動をしてしまう
逆に、不安な状況で攻撃的になってしまう人は、背景に「自信のなさ」が隠れていることが多いようです。
攻撃的になり相手を威嚇することで、自分の自信のなさを気づかれないようにしているのです。
「おかしな行動」と「ストレス反応」の関係
極端に消極的、あるいは攻撃的になるというのは、前回の記事で書いた「ストレス反応」にも関係しています。
人間は、不安を感じると「逃げるか、戦うか」をとっさに判断します。
「逃げる」というのは消極的になること、「戦う」は攻撃的になることと同じです。
そう考えると、今回のテーマである「行動がおかしくなる」ということ自体が、「逃げるか、戦うか」という観点からも説明ができますね。
- 極度に舞い上がった状態→【戦う】
- 全く気力を失ってしまった状態→【逃げる】
- 回避や逃避→【逃げる】
- 極端に消極的になる→【逃げる】
- 極端に攻撃的になる→【戦う】
最後に
ここまで見てきたように、緊張や不安を感じた時の「おかしな行動」は、日常生活や仕事面など人生全般に多大なマイナスの影響を与えてしまいます。
感じる不安の種類や大きさ、不安に出会う回数などによって、マイナスの影響はさまざまです。
しかし、最大の問題点は、不安を感じる状況を避ける習慣がついてしまうと、ますます社会不安は悪化してしまうということです。
だからといって、「場数を踏んで慣れる」というように、不安を感じる状況にむやみやたらに飛び込んでいけばいいというものでもありません。
そいういうショック療法で良くなる人もいますが、社交不安障害やあがり症の人では、かえって症状が悪化する人も少なくありません。
(参考)>>あがり症「場数を踏む」では克服できない3つの理由
では、どうすればいいのかというと、私たちの行動に大きな影響を与えている「認知」(ものの見方や考え方)を変えていくという方法があります。
次回は、その「認知」について、詳しくお伝えしていきます。
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タグ:社交不安障害