ネガティブに考えすぎてしまう厄介な「認知」について

ネガティブに考えてしまう人

前回と前々回の記事で、社会不安(対人関係における不安)が私たちの「体」や「行動」に及ぼす影響をみてきました。

今回は、不安や緊張が与える影響の中でも、最も厄介な「認知」についてお伝えします。

まず「認知」とは何かというと、普段なにげなく頭に浮かんでいる「考え」や「もの事のとらえ方、考え方」のことを指します。

あがり症や社交不安障害(SAD)の人の場合、考え方やものの見方がネガティブになる傾向が非常に多くなります。

たとえば、以前の私は初対面の人に会うと、反射的に「この人は、私のことをとっつきにくそうなヤツだと思っているんだろうなぁ…」などと考えてしまっていました。

普段あまり話す機会のない会社の同僚に対しては、「彼は私のことを嫌っているに違いない」と思い込んでいました。

これらの考えは、「体の変化・反応」と同じくらい瞬間的に頭に浮かんできてしまいます。

さらに、「もしかしたら~かもしれない」という曖昧な形ではなく「~にちがいない」というように、自分の中ではそれが真実であるかのように感じてしまうのも特徴の一つです。

実際には単なる思い込みであることがほとんどなのですが、ネガティブな考えが自然に浮かんできては、私たちを苦しめるのです。

不安を感じる状況での3つのネガティブな思いこみ

ネガティブな思い込みは、以下の3グループに分類できます。

  1. 「自分自身」に対するネガティブな思い込み
  2. 「相手からの評価」に対するネガティブな思い込み
  3. 「相手の反応」に対するネガティブな思い込み

1つずつ見ていきましょう。

1.「自分自身」に対するネガティブな思い込み

あがり症や社交不安障害の人は、自己評価が低くなりがちです。

常にわいてくる自己否定の気持ちに苦しめられている人も多いのではないでしょうか。

低い自己評価は「うつ病」をはじめとした精神疾患の原因にもなっています。

あがり症の人がうつ病を併発しているケースが多いというのも頷けます。

また、自己評価が低い子どもが大人になった時、「対人関係において不安を感じやすくなる傾向が多い」というデータもあるほどです。

一般的な人の場合は、自分の良いところも悪いところも、どちらも含めたうえで自分自身を評価しているものです。

しかし、不安や緊張を感じやすい人は、自己評価の基準を最初からとても高い位置に設定してしまいます。

「勉強もスポーツもルックスもスタイルも、全部良くないと人から好かれないし、自分で自分を好きにもなれない!」と感じています。

いくら周りの人が「君はそのままで十分素敵だよ」と言っても、単なる同情や慰め程度にしか捉えられません。

それどころか、「本当は自分のほうが優れていると思っているくせに!」と思わぬ恨みを買ってしまうことにもなりかねません。

2.「相手からの評価」に対するネガティブな思い込み

不安や緊張を感じやすい人は、他人の評価を強く気にする傾向があります。

「あの人は私のことをどう思っているのだろう?」と繰り返し自分に問いかけています。

そして、その答えは決まって「どうせ嫌われているに違いない」というネガティブな考えなのです。

ある実験で、社会不安を感じる人に無表情な人を会わせ、その人がどんな気持ちでいるのかを推理してもらいました。

すると、「怒っているようだ」「私に反感を抱いているにちがいない」といったネガティブな意見が最も多くなりました。

また別の実験で、社会不安を感じる人に「あなた主催のパーティーで、招待客が早く帰ってしまいました。理由は何だと思いますか?」という質問をしました。

すると、「ほかの用事があったから」とか「体調が悪くなったから」という理由も考えられるはずなのに、「私のパーティーがつまらなかったから」というネガティブな意見が一番多かったそうです。

他の実験でも、被験者に大勢の前でスピーチをしてもらったところ、不安をあまり感じない人は、自分に好意を持っていそうな人を観客の中から見つけ出していました。

ところが、不安を感じやすい人は、自分に反感を感じていそうな人をわざわざ見つけ出していました。

これらの結果からわかるのは、社会不安を感じる人は、他人の評価、特にネガティブな評価に過敏になりやすいということです。

そして、よくわからないことに対しては、すべてネガティブに捉えてしまいます。

ただ単に無口なだけで何ら悪意のない人がいたとしたら、不安を感じやすい人たちは「あの人は私の人が嫌いだから話そうとしないんだ」と、ほとんど自動的に考えてしまうのです。

3.「相手の反応」に対するネガティブな思い込み

あがり症や社交不安障害の人たちは、「自分自身」や「他人からの評価」だけでなく、「他人の反応」に対してもネガティブな思いこみをしてしまいがちです。

会議の席では「私の意見に対して反論してくる人がたくさんいるにちがいない」と考え、プレゼン前には「相手は意地の悪い質問をしてくるはずだ」と思い込んでいます。

とにかく相手は自分に対して悪感情を持っていて、他人の反応はすべて自分を傷つけるものだと信じて疑いません。

とくに初対面や大勢の人の前では、相手の反応が予想しづらいということもあり、ネガティブな思いこみをしやすくなります。

ネガティブな考えはどの時点で現れるのか?

ここまで「ネガティブな思いこみ」を3つに分類して見てきました。

次は、これらのネガティブな考え方(認知)は、一体どの時点で現れるのか。3つの時間軸に分けて見ていきたいと思います。

友人の結婚式でスピーチを頼まれたAさんの例を見てみましょう。

スピーチを頼まれた日から「私なんかにうまく務まるだろうか…」と不安になり、結婚式当日のスピーチの最中には「緊張しているのがバレていないだろうか…」などと不安に感じてしまいました。

スピーチを終えた後には、「満足にスピーチすらできない情けないヤツだと思われたにちがいない…」などの恥や後悔の意識にさいなまれ続けました。

このように、苦手な状況をネガティブに捉えてしまうのは、何もその状況の最中だけとは限りません。

その前と後にもネガティブな考えが生まれ、私たちを苦しめるのです。

ここでは苦手な場面の「事前」「最中」「事後」の3つの時間軸で感じる不安についてお伝えしていきます。

「事前」に感じる不安

事前に感じる不安は「予期不安」とも呼ばれます。

実際に苦手な状況に置かれる前から、すでにネガティブな考え方をして、不安を感じてしまうことを言います。

予期不安を感じるのは、いきなり苦手な状況に飛び込んだ時のショックを、事前にやわらげようとするためです。

「自分にうまくできるだろうか…」などの予期不安は、苦手な状況に置かれるまで何度でも繰り返し現れるのが特徴です。

「最中」に感じる不安

予期不安を感じていた時には、まだ頭は一応冷静さを保っています。

しかし、ひとたび苦手な状況に置かれてしまうとパニックに陥り、頭が真っ白になってしまう経験をした人も多いのではないでしょうか。

最中に感じる不安には、以下の2つの特徴がみられます。

  • 思考能力が低下してしまい、論理的な判断ができなくなる
  • 周囲の状況に過剰に反応してしまう

「事後」に感じる不安

まがりなりにも苦手な状況が終わったのですから、ようやく気持ちが解放されるかと思いきや、事後には「恥」と「後悔」を繰り返し感じることになります。

苦手な場面での自分の振る舞いを何度も思い出しては「あの時こうしておけばよかった…」「あんなことを言わなければよかった…」と、延々と一人反省会をし始めます。

しかも、良かったところはまるっきり無視して、悪かったところばかりを繰り返し思い出します。

その結果、さらに新しく悪いところが見つかり、気分もどんどん落ち込んでいきます。

この「事後」に感じる「恥」や「後悔」の気持ちこそが、場数を踏んでもあがり症が治らない大きな原因の一つになっています。

「事前と事後の不安」が「最中の不安」を強化する

スピーチを頼まれてから始まる直前まで、

「声が震えずに話せるだろうか…」
「顔が赤くなってしまわないだろうか…」
「しどろもどろになってしまわないだろうか…」

と、そんなことばかり繰り返し考えていたら、当然スピーチ本番では意識しすぎてしまい、失敗する確率は高まりますよね。

スピーチ本番が何とか終わったとしても、

「声が震えてしまった。みんなに気付かれたにちがいない…」
「あの時ああすればよかった…」
「こんなこともできないなんて、俺はダメな人間だ…」

と、繰り返し考えていたら、ネガティブな考え方がますます定着し、さらに過剰に不安を感じるようになってしまいます。

そして、また苦手な場面が訪れた時には、ますます不安が強化されてしまうのです。

このように、事前の不安と事後の不安が、最中の不安を強化していき、予期不安の時に浮かんだ「ネガティブな未来」が現実のものとなってしまいます。

ここまでお伝えしてきたネガティブな思いこみ(認知)は、その人の潜在意識に深く根づいているものなので、修正するのは非常に困難です。

しかし、あがり症や社交不安障害を根本的に克服するためには、まず何よりもこの「ネガティブな認知」を改善していく必要があります。

そのためには、テクニックなどのスキル面よりも、メンタル面の改善がより重要となるのです。

あがり症の体験記事を書いています。
私の失敗体験を、あなたのあがり症改善に役立ててください。

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