緊張時の体の変化・反応とストレスとの意外な関係
私たちが社会不安(対人関係において感じる不安)を感じる時、その不安は「体の変化・反応」「行動」「認知」の3つの側面に大きな影響を与えます。
今回の記事では、不安・緊張時に現れる「体の変化・反応」について詳しく解説していきます。
緊張時の体の変化・反応の種類
「緊張や不安を感じると、身体が勝手に反応してしまう」ということは、みなさん経験したことがあると思います。
私も緊張すると、お腹が痛くなったり、心臓がドキドキしたりという身体反応が強く現れていました。
以下は、不安・緊張時に見られる「身体反応」を、よく起こりやすい順に並べたものです。
- 心臓の鼓動が早くなる
- 手足や身体全体が震える
- 汗が出る
- 筋肉が硬直する
- 胃がキリキリと痛む
- 口の中が渇く
- 身体が熱く感じたり、反対に寒く感じたりする
- 顔が赤くなる
- 頭痛がする
- 頭が押しつぶされそうになる
- 頭の中が真っ白になり、意識がもうろうとする
人によって現れる身体反応は異なりますので、ここに挙げた以外にもたくさんあると思います。
パニック発作と広場恐怖
これらの身体反応は、極端な場合には「パニック発作」に発展することもあります。
私もパニック発作は2回経験したことがあります。
大げさに感じられるかもしれませんが、その時は命の危険を感じ、「もしかしたら、このまま死んでしまうのではないか…」という強い恐怖を覚えました。
その時は救急車を呼ぶ騒ぎになりましたが、幸いしばらくすると気分は落ち着きました。
「パニック発作」は、実際には生命に危険を及ぼすことはないと言われています。
しかし、実際に経験した者としては、その時の恐怖は今でもよく覚えています。
パニック発作を起こすと、その後「広場恐怖」に悩まされる人も少なくありません。
「広場恐怖」とは、簡単に言えばパニック発作を起こした場所に行けなくなることです。
「また発作を起こすのではないか」と考えてしまい、その場所そのものに強い恐怖を抱いてしまいます。
私の場合は、広場恐怖にまではなりませんでしたが、同じ場所へ行くと「また発作が起きるのではないか」という不安は感じていました。
他人に気付かれやすい体の変化・反応
身体反応には、比較的他人に気付かれにくいものと、気づかれやすいものがあります。
心臓の鼓動が速くなったり、胃がキリキリ痛む、口の中が渇く、などの反応は他人に気付かれにくいため、比較的悩みは浅いと言えます。
逆に、顔が赤くなったり、手足が震えたりといった身体反応は、他人に気付かれやすいため、悩みは深いと言えるでしょう。
社会不安を感じる人が深く悩んでいる身体反応には、以下のように他人に気付かれやすいものがほとんどです。
- 面接時に緊張で声が出なくなる
- 人前でお茶を飲むときに手が震えてこぼしてしまう
- 静かな場所でお腹がゴロゴロ鳴ってしまう
- 大事な商談中にトイレに行きたくなる
他人に気付かれやすい身体反応にはいろいろありますが、代表的な例として、次の項では赤面症と赤面恐怖について詳しく見ていきましょう。
赤面症と赤面恐怖
赤面症とは
赤面症とは、他人から見られていると感じる状況において、不安や緊張を感じることにより、顔が赤くなってしまうことです。
それでは、なぜ顔が赤くなってしまうのでしょうか。
私たちは他人の視線を感じると、反射的に「恥ずかしさ」を感じます。
それは、私たちが心の中に隠し持っている「考え」や「感情」を、他人から見られることで、見抜かれてしまうのではないかと感じ、「恥ずかしさ」を覚えるからです。
日本人の場合は、人の和を大切にする「村社会」の中で発展してきたという背景があるため、他の国の人たちと比べて、他人から見られることを恥ずかしいと感じる傾向が強いです。
そのため、赤面症の割合も他国に比べて多いと言われています。
赤面症の人たちが最も怖れていることは?
赤面症の人たちが最も怖れていることは、顔が赤くなっていることを「周囲の人に気付かれてしまうこと」です。
「周りの人たちに気付かれるなんて、どうしようもなく恥ずかしいことだし、社会的な信用すらも失われかねない」と信じ込んでしまっているからです。
他人からからかわれることで、顔が赤くなったことを過剰に意識してしまい、赤面症になってしまった人も多いことでしょう。
私の高校時代のクラスメイトで、人前で何かをする時に、すぐに顔が赤くなってしまう人がいました。
彼の顔が赤くなると、クラスの女子たちは「カワイイ~!」と言っていたので、赤面症を否定的に受け止めていたわけではありません。
しかし、本人にとってはものすごく恥ずかしかったようで、女子にはやし立てられると、ますます顔が赤くなっていました。
「周りの人たちに気付かれること」を最も怖れている赤面症の人たちは、顔が赤くなることを気づかれないように、時に下のような涙ぐましい努力までしています。
- 人前では常に黙っている。無能なフリをする
- 顔色がわからないように、明るい場所を避ける
- 大きな帽子やメガネ、マスクなどで顔を隠す
- わざと厚化粧をして顔色がわかならないようにする
- 赤面しそうになると、わざと思いきり鼻をかむ(鼻をかむと顔が赤くなるのは当たり前なので)
赤面症を治すとはどういうことか
このように悩みの深い赤面症ですが、治りかけているかどうかは、患者さんの「
ある言葉」で見分けることができるそうです。
「人前で話をしている時に、また顔が赤くなるのを感じました。でも、なぜかいつもより恥ずかしく感じなかったんです。」
このような言葉が出始めたなら、赤面症は治り始めていると考えても良さそうです。
「赤面症が治る」ということは、「顔が赤くならなくなる」ということではなく、たとえ顔が赤くなったとしても、それを「恥ずかしいこととは感じなくなる」ことだからです。
赤面恐怖とは
一度赤面症になってしまうと、同じような状況に置かれた時に、「また顔が赤くなってしまうのではないだろうか」という不安を感じます。
この不安を過剰に感じすぎてしまうと、同じような状況に置かれること自体に恐怖を感じるようになってしまいます。これを「赤面恐怖」と言います。
赤面症と赤面恐怖の違いが今イチわかりづらいかもしれませんので少し補足します。
赤面症というのは、人から見られるという特定の状況において「顔が赤くなること」です。
それに対して赤面恐怖というのは、一度赤面症を経験した人が、また顔が赤くなることに不安を感じ、そういう「状況そのものに恐怖を感じること」です。
赤面症を感じた人がすべて赤面恐怖になるわけではありません。
それは、顔が赤くなったことを「恥ずかしい」とか「腹立たしい」と感じたとしても、「恐怖」とまでは感じていないケースも多々あるからです。
反対に赤面恐怖の人は、恐怖を感じているために、より赤面症の症状がひどくなる場合が多くあります。
赤面恐怖の主な4つの特徴
- 「他者から見られている」と感じる場面で顔が赤くなる
- 意志の力で赤面を止められず、止めようとすればするほどさらに赤面してしまう
- 顔が赤くなってしまう原因を、何度も繰り返し考えてしまう
- 不安や恥ずかしさを感じる必然性がない時でも、突然赤面することがある
1~3については想像しやすいと思いますが、4については少しわかりづらいので、例を挙げて説明しておきます。
たとえば、「誰かが悪いことを企んでいるらしい」と聞いただけで、自分には何もやましい所はないにも関わらず、顔が赤くなってしまうような場合です。
これでは悪いことをしてもいないのに、犯人扱いされてしまうということも起こりかねません。
このように、赤面症の人たちは「顔が赤くなると困る」と思っただけで顔が赤くなってしまうため、犯してもいない罪を疑われてしまうことがあるのです。
もともとは積極的で社交的な人柄だったのに、赤面症になってしまったがために、内向的な性格に変わってしまったという人たちも少なくありません。
これでは、日常的な友達付き合いから仕事上の人間関係に至るまで、全ての対人関係において大きな支障が出てきてしまうと考えられます。
たかが赤面症と思う人もいるかもしれませんが、人生を台無しにしてしまうには十分な破壊力を持っている障害なのです。
緊張時の体の変化・反応とストレスとの意外な関係
不安や緊張を感じると現れる身体反応。
一見「百害あって一利なし」と感じるかもしれませんが、実はこの反応は我々を守るために備わった機能だと言われたらどうでしょうか。
人間の祖先が狩猟採集で生活していた時代、彼らが感じていた「不安」とは、そのまま「生命の危機」に直結するものでした。
たとえば、山道で熊などの捕食動物とバッタリ出くわしてしまった場合、彼らは瞬時に「逃げるか、戦うか」を決めなければなりません。モタモタしていたら命を失ってしまうからです。
そこで、瞬時に動き出せるように、身体が勝手に準備をし始めます。
心臓の鼓動は速くなり、呼吸は激しくなり、血液を大量に循環させようとして、筋肉は緊張し始めます。
これらの身体反応は、生命維持のために私たちの身体にもともと備わっている「ストレス反応」と呼ばれるものです。
本来は「不安=生命の危機」を感じると、この「ストレス反応」のメカニズムが働き始め、身体反応が現れていました。
しかし、現代では不安や緊張が生命の危機に直結することはむしろ少なくなりました。
にもかかわらず、「ストレス反応」のメカニズムだけはそのまま残っているために、不安や緊張を感じると、自然に身体反応が現れてしまうのです。
これが、私たちを悩ませている「身体反応」のカラクリです。
ここまでご説明したように、不安を感じた時に身体反応が現れてしまうのは、生物学的に言えばむしろ当たり前のことなのです。
そして次に示すように、最高のパフォーマンスを発揮するためには、ストレスは時になくてはならないものでもあるのです。
適度なストレスはむしろ必要
下の図は、以前別の記事でも紹介しましたが、緊張とパフォーマンスの関係を表したものです。
この図を見るとわかるように、適度な緊張や不安は私たちのやる気を刺激し、高いパフォーマンスを発揮させるのに一役買っています。
ただし、ストレスがその人の許容量を大きく超えてしまうと、緊張を強く感じてしまい、実力を思うように発揮できなくなってしまいます。
アスリートを対象にした別の調査でも、「緊張」と「不安」と「自信」がすべてある程度のレベルを維持している時に、最も優れたパフォーマンスを発揮できることがわかっています。
これらのことから、不安や緊張などのストレスは、完全になくすことが良いわけではないことがわかります。
むしろ最高のパフォーマンスを発揮するためには、どの程度のストレスを自分にかけるべきなのか、それを知ることが重要なのです。
ということは、身体症状も完全になくすのではなく、適度に感じられるようにコントロールする力が必要となってくるのです。
あがり症の体験記事を書いています。
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