子どもの内気な性格を直したい~人見知りは親のせい?
内気や人見知りの性格は、一体いつごろ形成されるのでしょうか?
だいたい15~20%の子どもが、生まれながらに「人見知りの身体的特徴」を持っているようですね。
「人見知りの身体的特徴」とは何かと言うと、不安や恐怖などの感情を司る、脳の「扁桃体」という部位に現れる特徴です。
内気や人見知りの子どもは、生まれつき扁桃体が大きく、ストレスに対して普通の子どもより敏感に反応するという特徴を持っています。
つまり、不安や恐怖を感じやすい脳を持っているから、内気や人見知りになりやすいということですね。
どうして不安や恐怖を感じなきゃならないの?
しかし、ここで一つ疑問が湧いてきます。
そもそも、なんでわざわざ不安や恐怖を感じる「扁桃体」なんてものが存在するのでしょうか?
不安や恐怖なんて、感じない方が幸せに過ごせそうな気がしますよね……。
ところが、これにはちゃんとしたわけがあります。
不安や恐怖は「人類が生きのびるために」必要な感情だったのです。
どういうことかと言いますと、たとえば原始時代のような大昔には、見知らぬ部族の人に突然出会った場合、問答無用で殺されてしまう危険性もあるわけです。
不安や恐怖を感じることなく、敵か味方かもわからない人の前に無防備で出ていくことは、文字通り「死」につながる時代がありました。
私たちが他人の前で不安や恐怖を感じ、他人の存在に敏感でいることは、それが生きのびるために必要だった時代のなごりだったのです。
内気や人見知りで不安や恐怖を感じるということは、それだけ生きのびる確率も上がっていたというわけです。
子どもの内気や人見知りが外に表れるのはいつごろ?
ちょっと話がそれましたので、元に戻しましょう。
内気や人見知りの子どもは「扁桃体が大きく、敏感に反応する」という共通の特徴を持っていますが、一般の人には扁桃体が敏感かどうかなんて見分けがつきませんよね。
それでは一体、子どもが内気や人見知りだとわかるような傾向が外に表れ始めるのはいつごろなのでしょうか?
内気な性格が外に表れ始めるのは生後4ヶ月目ぐらいからで、人見知りの傾向が表れ始めるのが2歳ぐらいからだと言われています。
このことは、生後4ヶ月目の子ども100人を集めて行われた研究でわかりました。
その研究では、聞いたことのない声や見たことのないもの、初めての環境などに子どもたちがどのような反応を示すかを調べたものです。
研究結果は以下のようになりました。
- 反応が大きい(身体反応が大きく、よく泣いた):23%
- 反応が小さい(身体反応が小さく、あまり泣かない):37%
- 身体反応は大きいが、あまり泣かない:18%
- 身体反応は小さいが、よく泣いた:22%
反応に違いが表れ始めるのがだいたい4ヶ月目ぐらいからで、反応が大きかった23%の子どもたちは内気な性格の傾向が強いということがわかりました。
生まれつき内気な子どもはその後どうなる?
それでは、反応が大きかった23%の子どもたちは、その傾向がその後も続いたのでしょうか?
生後9ヶ月目、14ヶ月目、21ヶ月目にも同様の実験が行われましたが、4ヶ月目に反応が大きかった23%の子どもたちは、その後も見なれないものに大きく反応し続けました。
見なれないものの中でも、特に「人」に対しての反応が強かったそうです。
別の研究結果でも、「人見知りを示す行動」は2歳ごろから外に表れるようになり、その傾向が表れた子どもたちの割合は、全体の15%ほどだったそうです。
「人見知りを示す行動」というのは、たとえば、知らない人を前にすると萎縮してしまったり、逃げ出したりするような行動のことです。
そういう子どもたちの3/4は、8才ごろまで人見知りを示す行動をとり続けました。
生まれつきの性格を変えるのは親の影響が大きい?
それでは、幼いころに内気や人見知りの傾向が見られた子どもたちは、その後は明るく社交的な性格になりづらいのでしょうか?
実際には、そういうわけでもないようです。
2才ごろまでは、生まれつき備わっている遺伝的な影響が強く性格に反映されますが、3才~思春期にかけては、遺伝的な影響は次第に弱まっていきます。
その代わり、今度は遺伝の代わりに「家庭環境」や「教育」、「個人的な経験」など、後天的な影響を強く受けるようになっていきます。
遺伝的要因(生物学的要因)に対して、これらは「心理学的要因」と呼ばれています。
この心理学的要因の影響で、幼いころに内気や人見知りだった子どもが、明るく社交的な小学生に育つことも珍しいことではありません。
もちろん逆に、幼いころに内気や人見知りではなかった子どもが、心理学的要因の影響で内気な性格や人見知りになってしまうというケースもあります。
「心理学的要因」の中では、特に「親の影響」が大きいと言われています。
子どものころに親の影響が大きいというのは、みなさん経験的にご理解いただけると思います。
私の場合は、子どものころに父親に否定的なことばかり言われて育ったために、自己否定の気持ちがとても強い性格が根づいてしまい、後々までかなり悩まされました。
親の影響で子どもが内気や人見知りになるケース
親の影響によって子どもが内気や人見知りになってしまうケースとしては、以下のようなものがあります。
親が内気や人見知りのケース
まず、親が内気や人見知りのケースです。
子どもは親の行動を無意識にマネしているうちに、同じように内気や人見知りになってしまうことがあります。
親の普段の生活習慣が原因のケース
たとえば、両親は人づきあいが苦手で、家にお客さんがほとんど来ないような場合が当てはまります。
そのような家庭で育ってしまうと、子どもはなかなか他人に慣れる機会が得られません。
しつけによって子どもが引っ込み思案になるケース
両親は内気でも人見知りでもないのに、しつけによって子供が引っ込み思案になってしまうケースもあります。
たとえば、親が「他人には騙されないように気をつけなさい」とか「人様に迷惑をかけないようにしなさい」、「みんなの言うことはきちんと聞きなさい」などとあまりくどくどと言いすぎると、他人の評価や反応に敏感な子どもになってしまいます。
そういえば、私も母親からよく「騙されないように気をつけなさい」と言われていました。
親が感情を表に出さない、ほとんど話さないケース
親が子どもの前で、喜怒哀楽などの感情表現をしなかったり、必要なこと以外はほとんど話さなかったりするケースもあります。
そういう家庭で育った子どもは、他人とコミュニケーションのとり方を学ぶ機会が失われてしまいます。
厳しい家庭で育ったケース
非常に厳格な教育方針のもとで、子どもに高いレベルを要求しすぎると、内気や人見知りになりやすくなります。
高いレベルを要求しすぎると子どもの自己評価は低くなり、他人との関係がぎくしゃくする原因にもなりかねません。
子どもの内気な性格や人見知りを直す親のかかわり方
3才~思春期ごろまでは、家庭がほとんど社会の中心みたいなものですから、どうしても親の影響は大きくなってしまいますよね。
それでは逆に、子どもが内気や人見知りにならないようにするには、親は子どもに何をしてあげれば良いのでしょうか?
親自身が社交的になる
まずは、親自身が社交的になることですね。
近所の人やお店の店員さん、子どもの友達の親たちと会話する姿を子どもに見せていれば、自然と子どもはマネするようになります。
大人と接する機会を作ってあげる
たとえば、家に友人を招いて子どもに紹介するなどしてあげてください。
その際に、招いた友人には子どもに2、3の質問をしてもらうように頼んでおくと良いでしょう。
友だちと付き合うきっかけを作ってあげる
他の子どもたちと親しく付き合うきっかけを作ってあげるのも大事ですね。
自宅で誕生日パーティーなどを開いて、子どもの友だちを家に招待してあげると親しくなるきっかけになります。
グループ活動に参加させる
時にはグループ活動に参加させるのも良い方法です。
夏休みなどの長期休暇の時には、家族そろって、あるいは友人たちと一緒に外出してみるのは定番です。
体験学習など泊りがけの合宿などに参加させるのも、子どもにとって良い経験になるでしょう。
友だちを作るきっかけを作ってあげる
新しい友だちを作るきっかけを作ってあげるのもいいですね。
たとえば、公園などでよその子どもに「お名前は?」「何才なの?」などと親が話しかける様子を子どもに見せていると、子どももマネして知らない子にも話しかけられるようになります。
社交的でないご両親の場合には、ちょっと大変な方法が多かったかもしれませんが、子どものためにもここはひと頑張りして欲しいところです。
今まで述べてきたように、親が社交的でない場合には、遺伝的にも家庭環境的にも、子どもが内気や人見知りになる可能性は高くなってしまいますので。
たとえば、こんなデータがあります。
両親のどちらかが社交不安障害である場合、その子どもが社交不安障害になる割合は、普通の両親の3倍にものぼります。
子どもが将来社交不安障害にならないためにも、親が健全でいてあげることは本当に大切なことだと感じます。
ここまで述べてきたように、子どもが内気や人見知りになるのは、2才ぐらいまでは生まれつきの遺伝的な要因が強く表れますが、3才~思春期ぐらいまでは家庭環境や教育などの心理学的要因が大きな影響を与えるということです。
後天的な影響としては、特に親の影響が強いので、親が子どもにどう接するかというのはとても重要なのです。
「時代」や「国の文化」も子どもの内気な性格に影響を与える
それでは、家庭環境や教育、個人の経験などの他に、子どもに与える後天的な影響はあるのでしょうか。
気が付きにくいですが、今自分が生きている「時代」や生まれ育った「国の文化」の影響なども受けています。
これらは、心理学的要因に対して「社会学的要因」と呼ばれています。
ちょっとわかりづらいと思いますので、具体的な例を挙げてみましょう。
日本人は世界一内気な国民?
たとえば、私たち日本人は感情表現が豊かな欧米人に比べて、恥ずかしがり屋やおとなしいイメージが強くないですか?
これは、生まれ育った国の文化の影響を強く受けているためです。
全人口に対する内気な人たちの割合を国別に調べた研究によると、1位が私たち日本人で60%、2位がドイツ人で50%という結果でした。
反対に、もっとも内気でない国民の1位はユダヤ系アメリカ人で24%、2位がイスラエル人で31%という結果になりました。
日本人は世界一内気な国民なんですね。
他にも日本人と欧米人では、「他人に対する不安の感じ方」も異なります。
欧米人の場合には、他人から「自分が愚かな人間に見られること」に不安を感じるのですが、日本人の場合には「自分が他人に迷惑をかけていないか」に不安を感じやすいということがわかっています。
つまり、欧米人は自分主体で、日本人は他人主体ということですね。
どうしてそんな違いが生まれてしまうのでしょうか。
それこそが文化の違いです。
欧米の場合「個人を尊重し、自立を促進する社会」ですが、日本では「共同体や集団の調和を重んじる社会」です。
そのため、日本人のほうが他人の評価を気にしやすい、内気で人見知りの割合が多くなると考えられます。
「男女間の教育の違い」が子どもの性格を変えていく
「国の文化」以外の社会学的要因としては、他にわかりやすい例として「男女間の教育の違い」があります。
たとえば、社交不安障害は男性より女性のほうが発症率が高いのですが、これは「男女間の教育の違い」に原因があると考えられています。
どういうことか説明しますね。
男性に求められる長所というと、たとえば強さだったり、積極性や自信だったりしますよね。
そのため、男の子の場合、内気や人見知りだと「もっと強い性格になりなさい」とか「もっと自信を持って行動しなさい」などのように教育されて、内気や人見知りを克服していくケースが多いのです。
反対に、女性に求められる長所というと、やさしさや奥ゆかしさだったりします。
そうなると、女の子が内気や人見知りだったとしても、男の子に比べてそれほど問題だとは思われません。
だから、内気や人見知り程度の軽い症状のうちに改善されず、社交不安障害という病気にまで至ってしまうケースが少なくないんです。
その根拠として、スウェーデンの都市部に暮らす子ども200人を対象にした調査があります。
それは、生後3ヶ月~16才まで追跡調査をして「男女間における人見知りの傾向の差」を調べたものです。
その調査によると、生後数ヶ月で強い人見知りの傾向を見せた男の子の場合、7才ぐらいまで強い人見知り傾向が続いたのですが、それ以降はその傾向が徐々に弱まっていきました。
ところが、強い人見知りの女の子の場合には、思春期までその傾向が続きました。
つまり、男の子の場合は、女の子より早く人見知りの傾向が弱まっていったということです。
これは、後天的な影響の違いだと考えられますよね。
男女間の後天的な影響の違いだとすれば、それは「両親や学校の先生によるしつけや教育の違い」だと考えるのが、最も妥当だという結論です。
このように、社会学的要因としては「国の文化」の他に、「男女間の教育の違い」も子どもの性格形成に大きな影響を与えています。
まとめ
ここまでの話をまとめておきます。
- 2才ぐらいまでの内気や人見知りは、遺伝などの先天的な要因の影響が強い
- そもそも他人に対する恐怖や不安は、人類が生きのびるために必要なものだった
- 3才~思春期ぐらいまでは、後天的な要因によって、内気や人見知りを克服したり、あるいは逆にその傾向を強めたりすることがある
- 後天的な要因には、家庭環境や教育などの「心理学的要因」と、生きている時代や国の文化などの「社会学的要因」がある
先天的な要因、つまり遺伝的要素については、今さら私たちに変えることはできません。
そして、時代や国の文化である「社会学的要因」も変えることは難しいですよね。
そうなると、私たちに変えられるのは、「親からの影響」に代表される「心理学的要因」になります。
子どもの内気や人見知りを放っておくと、大人になってから「社交不安障害」という病気にまで発展してしまうことがあります。
そうならないように、3才~思春期ごろまでに親が良い影響を与えてあげることが大切ということですね。
自分が社交的ではないと感じているご両親は、特に意識して子どもと接する必要があります。
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