相手を話に引き込む「間の取り方」~落語で学ぶ話し方④

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NHK Eテレの「まる得マガジン」から、「落語でつかむ話し方の極意」をご紹介してきましたが、いよいよ今回で最終回です。

今回は上手に使えばグッと話が引き締まる「間(ま)」の使い方と、聞き手との一体感が得られる「コール・アンド・レスポンス」のテクニックをご紹介します。

出演者は落語家の立川こはるさん、認知科学者の野村亮太先生、聞き手役は女優の三倉茉奈(マナ)さんです。

七席目「話の流れの中に“間”をつくる」

落語の中でもよく使われますが、「タメ」を使うことで話に緩急をつけることができます。

「タメ」というのは、言葉と言葉の間の一瞬の沈黙のことです。

どんな時に「タメ」を使えば良いのか、古典落語「浮世根問(うきよねどい)」から例を見てみましょう。

どこに「タメ」を入れると効果的なのか、あなたもご一緒に考えながら読んでみてください。

「あの、ご隠居さん。
 鶴は千年、亀は万年ていいますがね、
 本当にそんなに長生きするんですか?」

「あぁ、そうだな。千年、万年と生きる。」

「ホントに。じゃあね、ウチのお金坊がね、
 こないだ縁日でもって亀の子ども買ってきたんですがね、
 あれ、その晩に死んじゃったんですよ。
 どういうわけですか?」

「そらお前、ちょうどその日が万年目だったんだなぁ」

どこに「タメ」を入れたら良いのかわかりましたか?

答えは、最後の一文の中の「万年目」の前です。

「そらお前、ちょうどその日が【タメ】万年目だったんだなぁ」

「万年目」というのは、話のオチになっています。

オチの前に数秒のタメを入れると、聞き手にちょっと気を引いてもらえる、という使い方ですね。

わずか数秒の沈黙ですが、それがあることにより、聞き手は「どういう展開になるんだろう」と集中して聞くので、後の言葉が強調されてくるわけです。

では、実際に自己紹介でどのように「間」を生かせばいいのか、出演者の三倉茉奈(マナ)さんの例を参考に見ていきましょう。

以下は、以前マナさんが作った自己紹介文です。

マナさんが強調したい部分に線を引いてあります。その直前部分に「タメ」を入れます。

「はじめまして三倉茉奈です。

 料理を作るのが好きなんですが、
 あんかけ料理を作った時、
 水溶き片栗粉を何回入れても
 とろみが出なかったんです。

 どうしてだろうと思って
 味見してみたら粉砂糖でした。

 こんな私ですが
 どうぞよろしくお願いします。」

茉奈さんの場合は、覚えてもらいたい「自分の名前」と「話のオチ」の部分を強調することにしました。

あとは、タメを意識して自己紹介をしてみます。

実際に聞いてみると、強調したい言葉が聞き手として話の中に残りました。

話している茉奈さんも、「強調したい部分の言葉を集中して聞いてもらえている」という手応えを感じたようです。

ベテランの落語家さんで「間が良い」と言われている名人がいます。

そういう名人の話を聞いていると、お客さんが無意識に行うまばたきを、名人と同じタイミングで行なっている、なんてことも起きるそうです。

「間」を効果的に使うことで、お客さんもそれだけ一緒になって話を楽しんでいるということなのでしょう。

落語では、話す内容が同じでも、演者さんによってタメる場所が変わります。

「何を伝えたいのか」という聞かせどころが演者によって違うので、そういう違いを見つけるのも、落語を楽しむポイントの一つと言えるでしょう。

あなたが強調したいことは何なのか。

「間」を効果的に使って、聞き手を話に引き込んでいきましょう。

八席目「聞き手を感じ取る」

相手が興味を持って自分の話を聞いているのか、あるいはあまり面白くないと感じているのかは、話し手にとって気になるところですよね。

聞き手がどう感じているのかは、視線や体の向きなどを見ればある程度わかります。

聞き手の様子によっては、話を聞いてもらえるような工夫も必要になってくるでしょう。

落語界には、腕組みしながら「どんなもんか見てやろう」という雰囲気のお客さんが座っていることがあるそうです。

そんな人が聞き手の中にいたらやりづらいですよね。

「腕組み」というのは、自分の手の内を見せない、守りの姿勢です。

では、この腕組みを解くにはどうすればいいのかというと、「挙手」や「拍手」をうながすような問いかけや呼びかけをしてみることです。

そうすれば、自然と腕組みが解けますよね。

このように、聞き手にアクションしてもらうことを「コール・アンド・レスポンス」と言います。

このテクニックを使うことで、相手に参加してもらえますし、そうすることでお互いの関係が出来上がってきます。

落語もライブですから、いろんなことが起こるそうです。

たとえば、立川こはるさんが話している時に後ろで何かが落ちて「ガシャン!」と大きな音が鳴ったことがありました。

「枕(落語の本題に入る前の導入部分)」だとフリーで話しているので、「あぁ、何か落ちましたね」などとアドリブでお客さんに話しかけます。

すると、お客さんの中からちょっとした笑いが起こり、無視して黙って続けるよりも、場の一体感が高まると言います。

それでは、挙手を促す「コール・アンド・レスポンス」のテクニックを使った自己紹介の例を見てみましょう。

今回は最終回なので、今までこのシリーズで学んだテクニックも使って、三倉茉奈さんが自己紹介に挑戦しました。

『はじめまして、三倉茉奈です。【地声・笑顔】

 私、双子なんですけれども、
 ご存知の方いらっしゃいますか?【コール・アンド・レスポンス】
 (手があがる)
 ありがとうございます。

 私、双子なので、誕生日が同じなんです。【聞き手と共有できる話題】
 なので、双子の妹とよく一緒に誕生日プレゼントを
 買いに行ったりすることがあるんですけど…。

 「カナ、これどう?」【会話口調】
 「う~ん、ちょっと違うね」
 「じゃあ、これは?」
 「う~ん、なんか違うなぁ」
 「これは?」

 って、結局何も買えませんでした。

 そして、私はカレンダーをめくるように【比喩】
 季節を感じるのが好きで、
 よく旬の食材で料理を作ったりするんですけど、
 先日も、春野菜を使ってあんかけ料理を作ったんです。

 でも、水溶き片栗粉を何回入れても
 全然とろみがつかなくて、【失敗談】
 なんでだろうと思ってちょっと味見をしてみたら…【タメ】
 粉砂糖だったんです!

 こんな私ですが、どうぞよろしくお願いします。』

これまで8個のテーマを通して、認知科学の視点から落語を分析し、自己紹介を学んできました。

落語は話し方だけでなく、話す内容や相手への気配りなど、いろいろな視点からのお手本があったと思います。

しかし、自己紹介、スピーチ、プレゼンといっても、全て「聞き手」が存在しています。

テクニックを使うことでより話は引き立ちますが、一番大事なのは、この「聞き手へ伝えよう」という、サービス精神であることを忘れないようにしたいものです。

あがり症の体験記事を書いています。
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