自己紹介で笑いを取る方法「失敗談を話す」~落語で学ぶ話し方③
NHK Eテレの「まる得マガジン」から、「落語でつかむ話し方の極意」をご紹介しています。
第3回目の今回は「失敗談で笑いを取る」「会話口調でドラマにする」をお伝えします。
落語の語り口をヒントに、上手な話し方のテクニックを自己紹介に取り入れてみましょう。
五席目「失敗談で笑いを取る」
失敗談を話すと、聞き手からは「裏表なく話してくれる良い人」だと感じてもらえます。
落語の中にも、失敗ばかりしているそそっかしい人の話はたくさんあります。
たとえば、古典落語「堀之内」に出てくる熊五郎さん。
そそっかしいクセを治したい熊五郎さんが、堀之内のお祖師様というお寺へ拝みに行くシーンです。
「お願いします、お祖師様。
どうにもあっしはそそっかしくていけません。
一つこれでもってそそかしいのを
直してもらいたいと思いまして。
毎日ね、毎日毎日お参りに来ますんで、お願いします。
あ、そうだ、お賽銭出さなくちゃいけませんからね。
えぇ、ちゃんとね、支度してきたんですよ。
これでもってね、お賽銭をね、これで…
あっ!財布投げちゃった。財布ごと入れちゃったよ…。
えぇ、お祖師様、10日分前払いになってます。
ひとつどうぞよろしくお願いします。」
失敗してしまってかわいそうなんだけど、熊五郎さんがいとおしく、愛らしく感じられます。
落語では、このように「他人のちょっとした困りごと」を見ると笑いが起こります。
誰しも困ったことはあるはずなので、共感を得やすいということなのでしょう。
では、失敗談を自己紹介に生かすには、どうすれば良いでしょうか。
落語家の立川こはるさんが教えてくれた失敗談は、
「昔、緊張していて足袋(たび)を一足持ってきたと思っていたら、両方右足の足袋だった」
というものでした。
これを聞いた三倉茉奈さんは、自分も日本舞踊を習っていて、同じ経験があったので「わかるわかる!」と2人で盛り上がっていました。
認知科学的には、「失敗談で笑っておくと、その後大きく心が動く準備になる」そうです。
だから、失敗談の後にちょっとしたいい話をするだけで、すごく感動的に受けとめてもらえる、なんてことも起こりやすくなるのです。
ただ、失敗談と言っても、あまり内容が深刻すぎると笑えませんので、その点には注意してください。
たとえば、こはるさんがお客さんの前で「前座の時の貧乏だったころの話」をしたところ、あまりに悲惨すぎて、笑ってもらえないどころか、本気で心配されてしまったそうです。
さて、それでは「失敗談を取り入れた自己紹介」の例として、出演者の三倉茉奈さんの場合を見てみましょう。
「三倉茉奈です。
私は料理を作るのがすごく好きなんですけど、
こないだあんかけ料理を作ったときに、
水溶き片栗粉を何度入れてもなかなか
とろみがつかなかったんです。
どうしてだろうなぁと思って味見をしてみたら、
粉砂糖だったんです。
そんなそそっかしい所もありますが、
よろしくお願いします。」
失敗談を入れると、一気に親しみやすくなりますね。
聞いている人にも「友達になれそう」と感じてもらえるような自己紹介になったのではないでしょうか。
六席目「会話口調でドラマにする」
落語家さんは、一人でいろんな登場人物の会話を演じ分けていますよね。
会話口調を取り入れると、ドラマ仕立てになるので、事実だけ述べるよりも相手を話に引き込みやすくなります。
例として、古典落語の「替わり目」をみてみましょう。
酔っぱらって帰ってきた亭主と仕方なく酒を飲む女房との掛け合いのシーンです。
亭主「あのねぇ、酒だけ置いて行っちゃうバカはねぇだろ。
だからよ、その…、ちょいとこう…、出せよ!」
女房「何を出すんだい?」
亭主「だから…、この…、つまみ出せよ!」
女房「お前さんを!?」
亭主「俺つまみ出してどうするんだよ!」
こはるさんがよく自己紹介で使うという次のエピソードにも、会話が入っています。
『まず入門して名前をいただいて、
師匠に連れられて大師匠の談志師匠のところに
あいさつに行くわけですよ。
で、談志のもとで
「こはるでございます」
「おお、そうか」
なんてやりとりがありまして…
一年後に
「おい!こはる!」
「はい師匠、なんですか?」
「お前、女だったのか!」
って言われて…』
説明するだけでしたら「一年間、談志師匠に女だと気づかれなかった」と言うこともできます。
しかし、事実だけ伝えるよりも、会話調にしたほうがより生き生きと伝わることがわかると思います。
落語では、右を向いたり、左を向いたりして登場人物を演じ分けています。
ちなみに、客席から見て向かって右側が「上手(かみて)、左側を「下手(しもて)」と分けています。
人物を演じ分けることを、落語では「上下(かみしも)を切る」と言います。
会話口調での目線の作り方
- 両腕を肩幅に広げ、水平になる高さまで上げます
- 親指を立て、右手の親指の少し上くらいを見ます
- 次に、左手の親指の少し上くらいを見ます
※あまり大げさにせず、少し顔を動かす程度で十分です。
先ほどの例で挙げた「お前さん」や「おい、こはる」などの呼びかけの言葉を使うこともポイントの一つです。
呼びかけることで、会話する相手との関係性がすぐにわかります。
三倉茉奈さんが、自己紹介に会話口調を入れてみると、次のようになりました。
『はじめまして、三倉茉奈です。
私双子なんですけど、双子なので、
誕生日が妹と一緒なんです。
なので、よく誕生日プレゼントを一緒に
買いに行ったりするんですけど…
マナ「カナ、これどう?」
カナ「う~ん、ちょっと違うなぁ」
マナ「じゃあ、カナ、これは?」
カナ「なんか違うなぁ…」
マナ「え、じゃぁ、カナ、これは?」
カナ「う~ん、ちゃうなぁ…」
って、結局、いつも何も買えないんです。』
双子の会話という珍しい状況を取り入れて、印象深い自己紹介になっていますね。
今回は、「失敗談で笑いを取る」と「会話口調でドラマにする」をご紹介しました。
「失敗談」と「会話口調」を組み合わせても、おもしろい自己紹介ができそうですね。
次回は、「話の流れの中に“間”を作る」と「聞き手を感じ取る」をお伝えします。
あがり症の体験記事を書いています。
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