通る声の出し方と共感を得る話し方~落語で学ぶ自己紹介①

落語家 立川こはる

先日、NHK Eテレの「まる得マガジン」という番組で、「落語でつかむ話し方の極意」というテーマを取り扱っていました。

人の心をつかむ話し方のテクニックを落語家さんから学ぶという内容です。

認知科学的な分析も踏まえながら解説されていました。

自己紹介を行うことが多くなる4月のこの時期、困っている人も多いと思いますので、内容をご紹介しておきます。

出演者は落語家の立川こはるさん、認知科学者の野村亮太先生、聞き手役は女優の三倉茉奈(マナ)さんです。

一席目「自分の声を知る」

落語家にとっての自己紹介を「名乗り」と言います。

番組ではまず、立川こはるさんの名乗りのVTRから始まりました。

参考までに文字で書いておきます。

「お初にお目にかかります。立川こはると申します。
 落語家でございまして、落語家というとよくおじいさん
 などというイメージを持つ方がいらっしゃるんですがね。
 こういう若いのもいるんでございますよ。
 ただ、若いと言いましても、ぼうやじゃありません。
 女性でしてね。なんと34才という…」

文字では伝わらないと思いますが、とてもよく通る聞き取りやすい声でした。

その理由は「自分の声を知っているから」だと認知科学者の野村先生は言います。

「自分の声」とは、「地声を生かした声の出し方」という意味です。

地声なら、あまり大きな声を出さなくても、よく通る聞き取りやすい声になります。

では、どうやったら地声で話せるのでしょうか?

練習として、「あー」「おー」と何回か声に出すことが勧められていました。

「あ・い・う・え・お」の中では、「あ」と「お」が出しやすい声だからです。

のどをしぼらず、開ける気持ちで出してみてください。

コツは、ボールを投げるように声を飛ばすイメージで出すと良いそうです。

そうすると、よく通る伸びのある声が出るようになります。

ちなみに、立川こはるさんも、高座で話す時には、一番後ろにいるお客さんの頭の上に向けて声を出すようにしているそうです。

二席目「聞き手との接点を見つける」

自己紹介で話す内容は、聞き手との接点をもとに決めると良いでしょう。

落語家さんたちも、その日のお客様の顔ぶれを見て話題を変えたりしています。

例として、こはるさんの名乗りを見てみましょう。

「えぇ、ちなみにこの生の落語の高座を
 初めて見るよって方いらっしゃいますか?
 良かったら手を挙げていただいて…。

 あぁ、ありがとうございます。
 大勢いらっしゃいますね。

 私の師匠が立川談春という人でして、
 で、この師匠のさらに上の師匠が
 立川談志という人でしてね。
 まぁ、いわゆる子弟一門があるわけですが…」

こはるさんは、「質問→挙手を促す」という形で、聞き手との接点を探っていますね。

初めて生で落語を聞く人が多いことがわかったので、立川談志さんという有名な落語家さんの名前を出して、わかりやすく説明しています。

しかし、「質問→挙手を促す」というテクニックは、なかなか高度です。

初めて会うヒトばかりの自己紹介の場では、聞き手の反応も悪く、手も挙がりづらいかもしれません。

では、私たちのような素人が、聞き手との接点を見つけるには何をすれば良いのでしょうか?

それには、自分を表す要素を書き出して、下のような図で整理してみると良いでしょう。

聞き手との共通点探し①

ちなみに、出演者の三倉茉奈さんが書き込むと、以下のようになりました。

聞き手との共通点探し②(三倉茉奈の場合)

次は、書き出したプロフィールの要素の中から、聞き手と共有できそうな話題を選び出してみましょう。

たとえば、「落語が好きな人たちが集まっている場」を想定してみます。

趣味の「お笑い」が聞き手との接点になりそうですね。

選び出した要素をさらに細分化していくと、相手と共通する項目が複数見えてきます。

「お笑い」を起点にして、そこから思いつく言葉を書いていくと、以下のようになりました。

聞き手との共通点探し③(お笑い)

この材料があれば、落語が好きな聞き手にとって、魅力的な自己紹介ができそうです。

実際に、これらの要素を使って、茉奈さんが行なった自己紹介は以下のようなものになりました。

「はじめまして、三倉茉奈です。
 お笑いを見るのが好きで、落語にもとても興味があります。
 舞台で、落語「たちぎれ線香」の
 登場人物を演じたこともあるんです。
 落語のほかにも、日本文化に興味があって、
 日本舞踊を習っています。
 よろしくお願いします。」

相手から話しかけてもらいやすい要素がたくさん盛り込まれた、良い自己紹介になりましたね。

どのような人たちが集まる場なのかを想定し、魅力的な自己紹介を考えてみましょう。

次回は、「印象に残る話し方」と「見え方をコントロールする」についてご紹介します。

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